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松山地方裁判所 昭和51年(ワ)128号 判決 1977年5月18日

原告

門谷正信

ほか一名

被告

影浦敏男

ほか一名

主文

1  被告影浦敏男は、原告両名に対し各金二三三万七、二六五円及び内金二一二万七、二六五円について昭和五〇年一〇月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

2  被告影浦喜美子は、原告両名に対し各金一一六万八、六三三円及び内金一〇六万三、六三三円について昭和五〇年一〇月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

3  原告両名のその余の各請求を棄却する。

4  訴訟費用はこれら六分し、その四を原告両名の連帯負担、その一を被告両名の連帯負担、その一を被告影浦敏男の負担とする。

5  この判決は、1及び2について、これを仮に執行することができる。

事実

第一各双方の申立て

一  原告両名の申立て(請求の趣旨)

1  被告影浦敏男は、原告両名に対し各金七六四万七、四三七円及び内金六九〇万七、四三七円について昭和五〇年一〇月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

2  被告影浦喜美子は、原告両名に対し各金三八二万三、七一八円及び内金三四五万三、七一八円について昭和五〇年一〇月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

3  訴訟費用は、被告両名の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二  被告両名の申立て(請求の趣旨に対する答弁)

1  原告両名の各請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二各双方の主張

一  請求原因

1  亡門谷智子(以下智子という)は、昭和五〇年八月三一日午後一〇時五五分ごろ、亡山中美奈子(以下山中という)とともに、亡影浦俊二(以下俊二という)の運転する普通乗用自動車(愛媛五五(な)第七九七三号・以下事故車という)の後部座席に同乗して愛媛県伊予郡松前町塩谷重信川河口の堤防上の道路を進行中、事故車が海中に転落して、俊二及び山中とともに溺死した。

2(一)(1) 右本件事故は、俊二が一般車両の通行が禁止せられている堤防上の道路で時速九〇キロメートル以上の高速度をもつて事故車を運転中、進路前方において道路が左方へ直角に曲折しているのを知りながら、堤防(道路)の端すれすれで停車して智子及び山中両名を驚かす目的、すなわちいたずら心から、事故車を急制動しつつ左方へ転把せず、堤防の端で停車しようとしたが、制動距離の目測を誤つて停車できず、そのまま進行して海中に転落したのであつて、俊二は、民法第七〇九条により、本件事故により原告側に生じた損害を賠償すべき義務があつた。

(2) 被告喜美子は、俊二の母であつて、その父たる被告敏男とともに、法定相続分二分の一の割合で右俊二の損害賠償義務を承継した。

(二) 被告敏男は、事故車の所有者であつて、俊二をしてこれを使用させていたものであるから、その運転供用者として、自動車損害賠償保障法(以下自賠法という。)第三条により、本件事故により原告側に生じた損害を賠償すべき義務がある。

3  本件事故により智子及び原告両名に生じた損害は次のとおりである。

(一) 原告智子について(逸失利益)一八、二一五、一三四円

(1) 智子は、昭和三〇年一一月五日生れ、高等学校卒業学歴を有する健康な女子であつたので、本件事故に遭遇しなければ、厚生省編昭和四九年度簡易生命表によつて明らかなとおり、平均余命五八・五二年間生存し、満六六歳を超え満六七歳に達しない昭和九七年八月三一日まで四七年間稼働し、高等学校卒業者としての賃金を得べきはずであり、また、仮に、婚姻して一家の主婦として特別の職業を持たないとしても、右と同じ価値のある稼働能力を有したと認むべきところ、その生活費を収入の五割として、労働省編昭和五〇年度賃金センサス第一巻第一表の年齢別年間収入を基礎とし民事法定利率年五分の割合による年毎複式単利計算による中間利息を控除して同人の死亡時における逸失利益を計算すると、別紙逸失利益計算表のとおりであつて一、八二一万五、一三四円となる。

―智子は、高等学校在学中からアルバイトとして四国オーエス株式会社経営スバル座に勤めており、昭和四九年七月二日から昭和五〇年七月二八日まで同会社の正社員として給料一一〇万五、〇五九円の支給を受け、かたわら、原告正信が経営する飲食店瓢吉の手伝いをして年間九九万円の支給を受けていたところ、同飲食店に専務する目的でスバル座から退社し、日が浅かつたため、その給料が確定していなかつたが、スバル座と兼務した場合以上の給料を支給する予定であつたけれども、蓋然性の高い算定方法を採るため、高等学校卒業者の平均賃金によるものとしたのである。

(2) 原告正信は、智子の父として、原告サカエはその母として、右同人の逸失利益たる損害の賠償請求権を法定相続分各二分の一、九一〇万七、五六七円づつ相続した。

(二) 原告両名について

(1) 精神的苦痛たる損害 各五、〇〇〇、〇〇〇円

原告両名が智子の親として、その死亡によりこうむつた精神的苦痛は、それぞれ少くとも慰藉料五〇〇万円に相当する。

(2) 葬儀費等 六〇〇、〇〇〇円

原告両名は、智子の葬儀を行い、そのための費用を支出し、墓石を八〇万円で購入し、仏壇を三六万円で購入したのであるが、これら費用のうち本件事故による損害は、少くとも六〇万円を下らないとするのが相当である。

(3) 弁護士費用 各七四〇、〇〇〇円

原告両名は、被告両名が後記4(一)の原告両名の正当な損害賠償請求に応じないので、やむなく、本訴の提起を弁護士曽我部吉正に委任して、同弁護士に対し着手金として各五万円を支払い、成功報酬として訴額(判決認容額)の約一割に当る各六九万円の支払いを約諾して、同額の債務を負担しているところ、この弁護士費用計各七四万円は、本件事故による損害である。

4(一)  原告両名は、右3(一)(2)のとおり、智子の相続人として同人の逸失利益にかゝる損害の賠償請求権各九一〇万七、五六七円の債権を承継し、同(二)(1)の慰藉料請求権各五〇〇万円及び同(2)の葬儀費用等の損害賠償請求権六〇万円の二分の一、各三〇万円計各五三〇万円の債権を取得し、俊二及び被告敏男に対し合計一、四四〇万七、五六七円の損害賠償請求権を有したところ、これが損害の一部として自賠法保険金一、五〇〇万〇、二六〇円の給付を受けたので、その二分の一、各七五〇万〇、一三〇円を右原告各自の債権の一部に充当し、その差額各六九〇万七、四三七円が弁護士費用を除外した本来の損害賠償債権額である。

(二)  被告喜美子は、俊二の母として、右俊二の原告両名に対する損害賠償の義務の二分の一を相続したので、原告両名は、同被告に対し各三四五万三、七一八円(円位未満四捨五入して切上ぐ)の損害賠償債権を有する。

5  よつて、被告敏男は、原告両名に対し、本来の損害賠償として各六九〇万七、四三四円と、これに付帯して弁済期到来後である昭和五〇年一〇月一五日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金及び弁護士費用たる損害七四万円を、被告喜美子は、原告両名に対し、本来の損害賠償として各三四五万三、七一八円と、これに付帯して同一の遅延損害金及び弁護士費用たる損害七四万円の二分の一、三七万円をそれぞれ支払う義務があるので、その支払いを求める。

二  請求原因に対する被告両名の答弁

1  請求原因1の事実を認める。

2  請求原因2(一)(1)の事実を争い、同(2)の事実のうち被告喜美子が俊二の母であつて、被告敏男とともに、その相続人であることを認める。

同(二)の事実のうち、被告が事故車の所有者であることを認める。

3  請求原因3(一)(1)(2)の事実のうち、原告正信が智子の父、原告サカエがその母であることを認め、その余の事実を争い、同(3)の事実は知らない。

4  請求原因4(一)の事実のうち、自賠法保険金一、五〇〇万〇、二六〇円の給付がなされたことを認める。

5  請求原因5の主張を争う。

三  被告両名の主張

1  俊二は、その運転する事故車に智子を好意的に同乗させていて、本件事故が発生したのであるから、公平の原則からみて、少くとも、智子が受けた損害の三割が減額されるべきである。

2(一)  原告らは、智子の逸失利益を算出するに当り、労働者の平均賃金を基礎としているが、現に収入のある仕事に従事している者については、現実の収入を基礎とすべきであるから、同人についても、死亡当時の収入を基礎として算出すべきである。

(二)  慰藉料額については、一般的な基準があり、本件はいわゆる逆相続の場合であるから、原告両名合計で四五〇万円くらいが相当である。

(三)  葬儀費についても一般の基準があり、墓石、仏壇購入費は、本件事故と相当因果関係がない。

四  被告両名の主張に対する原告の反論

通常親族間の事故、無償同乗者間の事故については、親族間の情誼や無償関係のゆえに精神的損害に対する慰藉料額が減額されうるとしても、財産上の損害についてまで減額される例はなく、特に本件においては、智子が俊二及び山中から無理に誘い出されて事故車に同乗していたのであるから、一般的にいう好意同乗者間の事故と異つており、慰藉料額の算定についても、減額すべき理由がない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

1  父たる原告正信と母たる原告サカエとの間の実子である智子が、昭和五〇年八月三一日午後一〇時五五分ごろ、山中とともに、俊二の運転する事故車の後部座席に同乗して愛媛県伊予郡松前町塩谷重信川河口の堤防上の道路を進行中、事故車が海中に転落して、俊二及び山中とともに溺死したことは、当事者間に争いない。

2  成立について争いない甲第一号証の二と、甲第二号証を総合すると、右本件事故発生の状況は、次のとおりであると認められ、この認定に反する証拠はない。

(イ)  事故現場は、重信川左岸の護岸堤防上幅員約五メートルの舗装道路が西端(海面)に達して左方へ直角に曲折する個所であるが、同道路は、建設省が標識をもつて、一般の通行を禁止していること。

(ロ)  俊二は、時速約一〇〇キロメートル、あるいはそれ以上の速度をもつて、事故車を運転して右護岸堤防上の道路を西進して転落個所(道路西端)の手前六〇メートル以上の個所で急制動したが、(スリツプ痕が右車輪について五五メートル、左車輪について四五メートル残つている)、及ばず、直進して高さ五メートルの堤防端から約一〇メートル(事故車前端)飛び出し、事故車が所在の石に当つてから約一〇メートルはねて海中に飛び込んだこと。

(ハ)  俊二も、同乗していた智子及び山中も事故車から脱出することができず、溺死するにいたつたこと。

二  責任

1  右一、2の認定事実によると、本件事故は、俊二が事故車を暴走させて、重大な過失により事故車を海中に転落させたことにより発生したものであつて、同人は、民法第七〇九条により、本件事故により原告側に生じた損害を賠償すべき義務があると認められるところ、被告喜美子が俊二の母であつて、被告敏男とともに、その相続人であることは当事者間に争いないから、被告喜美子は、俊二の相続人として、右俊二の損害賠償義務を法定相続分二分の一の割合により承継したと認めるべきである。

2  被告敏男が事故車の所有者であることは、当事者間に争いないので、同被告は、自賠法第三条により、本件事故により原告側に生じた全損害を賠償する義務がある。

三  損害

1  智子について生じた損害(逸失利益)一二、六五四、七九〇円

(一)  原告門谷正信本人尋問の結果によると、智子は、昭和三〇年一一月五日生れで、昭和四九年三月に聖カタリナ女学校を卒業し、同年七月から四国オーエス株式会社経営の映画館スバル座に就職して昭和五〇年七月二八日まで勤め、それ以後原告正信が経営している飲食店の手伝いをしていたが、定まつた給料の取りきめをしていなかつたと認められ、成立について争いない甲第七号証の一ないし九によると、智子は、スバル座に在勤中(一年一月)給料、賞与として合計一一六万四、七七八円の支給を受けていたと認められるところ、同本人尋問において、原告正信は、智子に対し、飲食店手伝いの報酬としてスバル座における収入金額以上を支給する予定であつたというのであるが、この供述をそのまゝ信用できないとしても、智子が生存していれば、いずれ結婚して家庭の主婦として家事労働に従事することとなると推認するを相当とし、その場合、学歴に関係なく、一般女子労働者が定期的に得る平均賃金に相当する労働価値があるものとして逸失利益を算定するを相当とし、その労働期間は、一般労働者の例に準じ、六七歳を限度とし、本件については原告らの主張にしたがい、智子が六七歳に達する直前の昭和九七年八月三一日までの四七年間と定めるを相当とする。

ところで、労働省編昭和五〇年度賃金センサス第一巻第一表によると、企業規模計、労力計女子労働者の月間きまつて支給する現金給与額は、八万八、五〇〇円であるところ、その生活費を右収入の二分の一とし、家事労働期間四七年間にかゝる民事法定利率年五分の年毎複式単利計算による中間利息を控除すると、次の算式により智子の逸失利益は一、二六五万四、七九〇円となる。

八八、五〇〇×一二×〇・五×二三・八三二≒一二、六五四、七九〇

(二)  原告正信が智子の父、原告サカエがその母であることは当事者間に争いないから、原告両名は決定相続分各二分の一の割合により同人の遺産を相続し、右同人の逸失利益たる損害賠償請求権の二分の一、各六三二万七、三九五円を承継したものである。

2  原告両名について生じた損害

(一)  精神的損害 各三、〇〇〇、〇〇〇円

原告両名が本件事故により智子を失つたことによる精神的損害は、原告両名と智子との身分関係、前記認定の事故の態様等を勘案して、慰藉料各三〇〇万円に相当すると認める。

(二)  葬儀費等 六〇〇、〇〇〇円

(1) 弁論の全趣旨として、原告両名がその父母として智子の葬儀を執り行つたと認められ、公知の事実として、これが費用は四〇万円を下らないというべきである。

(2) 原告門谷正信本人尋問の結果と、同結果により真正に成立したと認められる甲第三号証によると、原告両名は、智子の位牌をまつるため、仏壇を代金三六万円をもつて購入し、また、同原告本人尋問の結果と、同結果により真正に成立したと認められる甲第四号証の一、二を総合すると、原告両名は、智子の遺骨を埋葬するため墓石を代金八〇万円をもつて購入したと認められるところ、右仏壇及び墓石代金のうち少くとも二〇万円が智子の死亡、すなわち本件事故と相当因果関係のある費用であると認めるを相当とする。

(三)  弁護士費用 計四二〇、〇〇〇円

原告門谷正信本人尋問の結果と、同結果により真正に成立したと認められる甲第五号証の一、二を総合すると、原告両名は、本訴の提起を弁護士曽我部吉正に委任し、同弁護士に対し着手金として各五万円を支払い、成功報酬として認容額の各一割に当る金員を支払うことを約諾していると認められるところ、これが費用のうち後記弁護士費用を除く認容額の各約一割に当る各二一万円が、本件事故と相当因果のある費用であると認めるを相当とする。

四  損害の填補と原告両名の損害賠償債権額

1  原告両名が本件事故による損害の填補として自賠法保険金一、五〇〇万〇、二六〇円の給付を受けており、その各二分の一、七五〇万〇、一三〇円を原告各自の損害に充当したことは、原告両名が自認しているので、弁護士費用たる損害を除く原告両名の損害賠償債権額は、逸失利益六三二万七、三九五円、慰藉料三〇〇万円及び葬儀費用等三〇万円の合計九六二万七、三九五円から、右填補額七五〇万〇、一三〇円を控除した二一二万七、二六五円(弁護士費用を除く認容額)と、これに付帯する民事決定利率年五分の割合による遅延損害金であつて、これに弁護士費用各二一万円を加算した金額が現在の損害額であり、被告敏男は、事故車の保有者として、原告両名に対し、それぞれ右金員を支払う義務をおうものである。

2  被告喜美子は、俊二の相続人として、右1の弁護士費用を除く認容額二一二万七、二六五円の二分の一、一〇六万三、六三三円(円位未満四捨五入して切上ぐ)と、これに付帯する民事法定利率年五分の割合による遅延損害金及び弁護士費用各二一万円の二分の一、一〇万五、〇〇〇円を原告両名に対し、それぞれ支払う義務をおうものである。

3  前記甲第三号証によると、原告両名が仏壇の代金を支払うたのは昭和五〇年九月二〇日であると認められ、また、甲第四号証の二によると、原告両名が墓石代全額を支払うたのは同年三月一四日であると認められるので、全損害について、遅延損害金の起算日を同月一五日とする原告の請求は相当である。

五  抗弁について

被告両名は、智子が俊二の好意により事故車に同乗していたことを前提として、損害が減額されるべきである旨抗弁するけれども、証人林和雄の証言によると、智子は、喫茶店において友人を待ち合わせていたところ、俊二の勧めにより、特別の所用があつたというのでなく事故車に同乗し、俊二がいわゆるドライブの目的で事故車を運転中に本件事故が発生したものと認められ、前記認定事実によると、本件事故発生における俊二の過失は重大であると言えるので、一般の好意同乗中の事故とは類を異にしており、その他の損害についてはもとより、慰藉料算定についても、智子が事故車に同乗していたことをもつて減額の理由とならないと認めるを相当とする。

六  結語

よつて、原告の主張は、右四に認定する金額の限度において理由があるので、本訴請求を主文1、2のとおり認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条本文及び第九三条一項たゞし書を、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 水地巌)

逸失利益計算表

<省略>

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